「勝つまで闘い続ける」中村順(STOP!生活保護基準引き下げ)

人間らしく生きる権利を求めて~ジェットコースターの10年間~ 解説・意見など

 生活保護問題対策全国会議設立10週年記念文集『人間らしく生きる権利を求めて 〜ジェットコースターの10年間〜』が2017年6月に刊行されました。この本に「STOP!生活保護基準引き下げ」編集部員(中村)が寄稿した「勝つまで闘い続ける」をパブリックドメイン(公有材)として無料公開します。
 なお『人間らしく生きる権利を求めて 〜ジェットコースターの10年間〜』は定価1300円(A5版/220ページ)にて販売されています。この本には生活保護の問題に取り組む多くの方々の貴重な文章が収録されています。平和的生存権および社会参加権に興味をお持ちの方は、ぜひお読みくださるよう、お願いします。

☆転載開始☆

勝つまで闘い続ける
  中村 順(なかむら じゅん/STOP!生活保護基準引き下げ)

 生活保護改悪反対運動に私(中村 順)は2011年頃から参加し続けてきました。運動の中で自分はどう動いてきたか。そこで得たものとは。これから何をしていきたいのか……等々を「生活保護問題対策全国会議」との関わりを基調に語らせていただきたいと思います。

生活保護の運動と私

 2011年8月10日、生活保護利用当事者中心のデモが東京都内で行なわれました。デモ実行委員会に知人がいたこともあり、私も一参加者として共に歩みました。猛烈に暑い日でした。生保利用者がデモという形で自ら声を上げる。それはもしかしたら日本の歴史で初めてかもしれないという出来事でした。
 翌年(2012)8月8日には2回目となる当事者主催デモが開催されました。東京はまたもや猛暑日でした。「2年連続で真夏に開催とは! 実行委員会はいったい何を考えているのか?」という声も若干あったようでした。このときは私も実行委員の一人でしたから、参加者の皆さまにはお詫びを申し上げたいと思います(いまさらではありますが)。
 なお、生活保護当事者が主催したデモは数少なく、支援団体などが中心となり行なわれることが多いのです。2011年と2012年のデモは文字通り当事者による手作り企画でした。その点に格別こだわる訳ではありませんが、歴史記録として言及しておきたいと思います。
 2回目デモの翌月9月23日、東京・京橋プラザ区民館で、生活保護基準切り下げに反対する幅広い運動の作戦会議が行なわれました。ここで私は「生活保護問題対策全国会議」(※以下「全国会議」)の方たちと初めて顔を合わせました。
 当時は様々な団体・個人による緩やかなネットワークとしての「STOP!生活保護基準引き下げ」アクションが立ち上げられていました。「全国会議」も参加団体の一つです。9月23日会議では「STOP!生活保護基準引き下げ」アクション(※以下「STOP!アクション」)のインターネット公式サイトとツイッターを作ろうという提案もあり、了承を得ました。そして生保当事者が約半数を占めるウェブ広報チームが結成され、私も加わることになりました。
 じつは「STOP!アクション」の性格はその後に変遷があり、現在では生保利用者や貧困当事者が中心メンバーとなり、自分たちの声を上げてゆく場所となっています。ある意味で2011年・2012年当事者主催デモの精神を継承しているとも言えるでしょう。
 私が運動の中で何をしてきたかを端的にいえば、このウェブ広報係を主に務めてきたのです。当事者の声をウェブを通じて社会に届ける。「全国会議」などが主催する集会・シンポジウム・デモ・学習会に参加して報告記事を公開する。時には自分たちの小さな集いを実施する。そういったことを今も続けています。大体において「飽きない」性格なんですね。

生活保護は「恥」ではない

 生活保護の運動では「全国会議」の皆さまに多くのことを教えていただき、影響を受け、お世話になってきました。改めてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます。
 たとえば、私は「生活保護を『受ける』」という表現を意識的に忌避しています。替りに「生活保護を『利用』する」と言い(書き)ます。引用の場合を除いて、常に「利用」です。「受ける」という言い方にはなんだか嫌なものがあるのです。たとえば、公共(みんなのもの)である公道や公園に関して「受ける」とは言いませんね。なぜ生活保護だけが「受ける」なのでしょうか? そんな思いがあって「受ける」は使いません。
 2012年春頃には既に「生活保護を利用する」を常用するようになっていました。どうしてそうなったかは記憶していません。おそらくは「全国会議」理事で生活保護をかつて3年半利用した経験を持つ方の影響を受けたのではないかと思います。ことさらに「生活保護を『受ける』と言うのはけしからん!」みたいな言葉咎めをしようとは思いませんが……ここは重要なポイントです。
 あらゆる社会運動において「当事者」の意見が重要視されるべきなのは言うまでありません。「当事者抜きで物事を進めない」ことは、いまや運動の常識と言っていい(残念ながら、社会全体の常識とはなっていないと思いますが)。生活保護運動でも当事者発言は重んじられてきました。
 けれども、その際に注意すべき点があります。
 生活保護バッシングやヘイトスピーチ(憎悪煽動)が横行する社会──すなわち現在の日本──で声を上げるのには大きなリスクがともないます。当事者が発言し活動することで、その本人はストレスに晒され、精神的・身体的疲労を蓄積させ、体調を崩す、持病を悪化させてしまう。そのような方を私は幾人も見てきました。生保利用者は病気や障害を持つことがほとんどです。元気いっぱいで何の憂いもない、なんて人はまずいません。
 ですから、当事者が安全に発言できる環境をつくるという意識が運動の中で共有された上で、現実的に行動しなければなりません。私は──時に自分自身苦い失敗をしながら──それが分かりました。
 運動を通じて学んだ最大のものについて書いておきます。将来、私が生活保護を必要とする時が来たら、一瞬もためらうことなく、すぐさま「利用」する。怪我をしたら病院に行くように、公道を歩くように、公園で憩うように、息をするように、生活保護を利用する。生活保護は「恥」ではない。断じて違う。必要なときに制度を使うことで、生活の自由度を高められる。より良い人生を築く助けとなる。このような確信を持てたのが自分にとって最も大きな収穫でした。

我々は決して負けない

 先に紹介した「STOP!生活保護基準引き下げ」アクションをプラットホーム(基盤)として、私は生活保護や生存権の運動を実践しています。同時にそれは社会に参加することであり、社会に貢献することであり、自分自身と社会をより豊かにすることなのです。
「STOP!アクション」の仲間には生活保護利用者も貧困当事者も「いきづらさ」の当事者もいます。私たちは冗談半分に「自分たちは『特殊部隊』なのだ」と言うこともあります。生活保護利用当事者の生(なま)の声を紹介する。その際は発言する人の安全を最大限に配慮する。もし仲間が攻撃を受けたなら「自分の問題」として対応する。必要とあらば徹底的に闘う。他の方たちができないようなことをする。そんな心意気をもつ「特殊部隊」です。
 ちなみに、これらは「無償ボランティア」です。いっさい報酬を得ることなく、交通費などの経費も自弁で活動しています。今回の原稿料も金銭的にはゼロで、出来上がった本を1冊いただくのみです。原稿料がなくとも手抜きすることなく、魂を込めて文章を綴る私ですが(笑)。
 生活保護の問題に関わってきて、私自身「差別」や「人権」の意識が高まってきたと感じています。今年(2017)1月に発覚した小田原市「SHAT」ジャンパー事件もヘイトスピーチ(もしくはヘイトクライム)であるという厳しい認識を私は持っています。小田原・生活保護利用者威嚇事件に関してここで深入りする余裕はありませんので「STOP!生活保護基準引き下げ」公式サイトを通じて意見表明していくことにします。
 最後になりましたが、尾藤廣喜さん(びとう ひろき/弁護士、生活保護問題対策全国会議代表幹事)に教えていただいた、馬奈木昭雄弁護士(まなき
あきお/水俣病被害者救済に長年取り組む)の言葉を紹介して、拙稿を終わることにします。

我々は決して負けない。なぜなら勝つまで闘うからだ。

 私もまた勝つまで闘います。仲間の皆さまと励ましあい助けあい、誠意を持ちつつ巧妙に、しつこくシブトク闘い続けたいと思います。

☆転載終了☆

人間らしく生きる権利を求めて~ジェットコースターの10年間~

【書籍情報】
書籍名:人間らしく生きる権利を求めて~ジェットコースターの10年間~
編著:生活保護問題対策全国会議
定価:1300円
A5版 220頁