【報告】東京生活保護削減反対国賠訴訟(新生存権裁判)第2回口頭弁論期日

レポート

 東京生活保護削減反対国賠訴訟(新生存権裁判)の第2回口頭弁論期日が、2019年2月6日、東京地方裁判所で行なわれました。冷たい雨の降る冬日でしたが、103号法廷は傍聴者で満席となりました。原告2名の意見陳述。原告弁護団が被告(国)の不合理・不誠実を批判。また裁判長の「異例」といえる厳しい指導が被告に対してなされました。

 東京生活保護削減反対国賠訴訟(新生存権裁判)では生活保護利用者たちが国を訴えています(提訴日:2018年5月14日)。第二次安倍政権成立以降の2013年〜2015年、政府は生活保護費の引き下げを三度にわたり強行しました。これに対して原告(30代〜90代男女/現在56名)が求めているのは次の2点です。

  1. 非人間的生活を強いられていること(生存権侵害)に対する慰謝料請求
  2. 生活保護費減額決定の取り消し

 なお、東京ではこの「新生存権裁判」とは別に通称「はっさく訴訟」という生活保護国賠訴訟が係争中です。「はっさく訴訟」は2015年6月19日提訴、「新生存権裁判」は2018年5月14日提訴で、2つは異なる裁判です。混同されやすいかと思いますので、どうぞご注意ください。生活保護費引き下げに関する裁判は東京(2件)を含めた全国29都道府県で計1000人以上の原告により争われています(参考サイト:いのちのとりで裁判全国アクション)。

 次回の告知です。
 第3回口頭弁論期日は2019年5月15日(水)14時30分から103号法廷で行なわれます。13時30分から裁判所正門前で街宣・ビラ配りなど、閉廷後には報告集会も予定されています。

裁判所前
(社会保障は国の責任!/裁判所前)

 東京新生存権裁判の第2回口頭弁論期日では原告「C」さん(50代男性)が意見陳述をしました。この方は原告団副団長2名のうちのひとりです。その要旨を以下に紹介します。
コンピュータ関連の専門学校を卒業して電機メーカーに就職。しかし39歳のときにリストラされる。その後は派遣業などに就いていたが、腎不全を患い、週4回の人工透析を受けることに(第一級身体障害者)。いまは某NPO法人運営のカフェで働いていて、月に1万5千円の収入がある。生計の不足を生活保護利用でまかなっている。倹約のため、1日2回の食事は自炊が中心。エアコンは電気代がかかるのでなるべく使わない。親戚つきあいも金銭的な理由で難しい。生活保護費の引き下げは人と人とのつながりを奪うと強く感じている。

 さらに原告「D」さん(30代男性)が意見陳述しました。この方も原告団副団長です。
精神疾患と心臓の難病があるため生活保護を利用している。「無職」者に対する世間のバッシングが怖い。自分はセクシャル・マイノリティ。杉田水脈(すぎた みお)衆議院議員議員(自民党)による《LGBTの人たちは生産性がない》発言を知ったときは「お前は生きるに値しない」と言われているようで、追い詰められた。ナチスによる障害者・同性愛者虐殺を連想した。保護費減額のため墓参りにも行けず、社会的な孤立を深めている。「生活保護利用者は人間らしい暮らしができているのか?」と問われるなら、断じて「否」と答えるしかない。

 続いて裁判長による被告への厳しい質問と指導がありました。当記事後半でも触れるように、これは「異例の進行」といえるそうです。以下は裁判長の言葉の抜粋です。
被告の言う「(引き下げの)合理的な理由」の中身がさっぱり分からない。
説明としてこの書面で充分とお考えなのでしょうか?
「デフレ調整」において平成20年(2008)を「基点」とした理由は?
ちゃんとした内容のある書面を提出してほしい。

 弁護団の田所良平(たどころ りょうへい)・佐藤宙(さとう おき)弁護士からは次のような指摘がされました。
被告からの回答(準備書面1)は提出がきわめて遅く(弁論期日の1週間前)、かつ内容も不十分。
国は生活保護引き下げの根拠について説明・回答できないのか?
いま問題となっている基幹統計での不正と本件の「デフレ偽装」は同じ問題だ。

報告集会
(新生存権裁判弁護団/報告集会)

 閉廷後、報告集会が衆議院第2議員会館・第1会議室で開催されました。

 黒岩哲彦(くろいわ てつひこ)弁護士(弁護団共同代表)
裁判長があれだけ厳しい指導を行なうのは普通にあることではない。この裁判は異例の進行だと言える。

 田所良平弁護士(弁護団事務局長)
「デフレ調整」の根拠を被告は答えられない。本来なら即座に回答できなければおかしい。
今回、被告からの書面はつい1週間前に提出された(第1回期日からは2ヵ月以上経っている)。それなのに「何を言っているか分からない」ような代物だ。
原告が被告に聞きたいことを裁判長が先に質問してくれたのはある意味ありがたい。が、黒岩弁護士が指摘されたように、きわめて異例なこと。

 佐藤宙弁護士
国の主張にはおかしいところが沢山あるが、その中でも特に「デフレ調整」がおかしい。
被告の説明は説明になっていない。一言でいえば「ごまかし」だ。
物価は国が主張するほど下がっていない。

 来場した山添拓(やまぞえ たく)参議院議員(共産)の挨拶が行なわれました。
安倍政権は嘘がバレても嘘の上塗りをする。
 また福島みずほ(ふくしま みずほ)参議院議員(社民)と尾辻かな子(おつじ かなこ)衆議院議員(立民)も参加されましたが、到着が遅れたため、発言はありませんでした。

 白井康彦さん(しらい やすひこ/フリーライター、元「中日新聞」編集委員)も発言しました。白井康彦さんは、厚生労働省による「物価偽装 → 生活保護基準引き下げ」問題に誰よりも真摯に根気強く取り組まれてきた方です。「物価偽装」とは何かは白井さん自身のウェブサイト「生活保護費大幅削減のための物価偽装を暴く」で解説されています。白井意見書は名古屋・さいたま・富山・福岡・宮崎と5つの地裁に提出されており、その件数は今後も増える予定だそうです。
生活保護費を引き下げるために行なわれた「物価偽装」はきわめて悪質。まったくのウソ。馬鹿馬鹿しいくらい酷い。
厚生労働省による統計の不正が明らかにされ、開催中の国会は「統計国会」の様相を呈している。雇用保険や労災保険等では「追加給付」が言われているが、生活保護の場合はなぜ言われないのか? おそらく総額1000億円をはるかに超えるはずだ。》
統計不正が注目されている今がチャンス。裁判と同時に国会でも頑張ってほしい。

○関連記事
「厚労省に「前科」あり? ── 統計不正 物価 大幅下落偽装か 本紙元記者・白井氏が指摘」(「東京新聞」2019年2月7日朝刊『こちら特捜部』)

 生活保護は国のナショナル・ミニマム(生存権保障水準)であり、社会保障の根幹です。生活保護基準は様々な制度──就学援助・保育料・住民税非課税基準・介護保険料・高額療養費・難病医療費・障害者サービス・そのほか多数──と密接に関連しています。保護基準が引き下げられば、上に挙げた制度を利用できなくなる方が多数発生することになります。生活保護の後退は社会保障全体の後退を招くのです。全国29都道府県で1000人以上の原告により訴えられた生活保護訴訟(いのちのとりで裁判)は、生活保護利用当事者の生存権(人間らしく生きる権利)を守ることはもちろんのこと、社会保障制度そのものを守るために争われています。その意味では、この社会で生きるわたしたち全員が「当事者」だといえるでしょう。負けるわけにはいかない裁判です。ぜひ傍聴や SNS での情報拡散など応援をよろしくお願いします。

 ふたたび告知です。第3回口頭弁論期日は2019年5月15日(水)14時30分から103号法廷で行なわれます。13時30分から裁判所正門前で街宣・ビラ配りなど、閉廷後には報告集会も予定されています。

白井康彦さん
(白井康彦さん/報告集会)

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