【報告】院内集会「ガマンくらべを終わらせよう。生活保護でも大学に! 下げるな! 上げろ! 生活保護基準」

レポート

 2017年11月15日、緊急院内集会「ガマンくらべを終わらせよう。生活保護でも大学に! 下げるな! 上げろ! 生活保護基準」が参議院議員会館・講堂で開催されました(主催:いのちのとりで裁判全国アクション)。参加者は定員以上の約330名。事前に用意された集会資料(300部)が足りない! という事態になりましたが、同資料は「いのちのとりで」ウェブサイトで PDF データが無料公開されています(公開期限:2018年3月31日迄)。
 集会では木村草太さん(憲法学者)の講演、田川英信さん・桜井啓太さん(ともに元生活保護ケースワーカー)による報告、4人の生活保護利用当事者の発言、集会アピールの採択(※当記事の末尾に全文転載)、尾藤廣喜さん(弁護士)から行動提起、参加者みんなでパネルアピール、竹下義樹さん(弁護士)のまとめと挨拶が行なわれました。とても内容充実した院内集会でした。
 国会議員は以下の方たちが来場しました(五十音順/敬称略)。

木村草太さん
 木村草太さん(首都大学東京大学院教授)による基調講演《生存と生活保護》
(※以下は「STOP!生活保護基準引き下げ」編集部による要旨です)
《日本国憲法は個人の自由・財産権・市場経済(自由主義)経済体制を採用している。自由主義経済は優れたものだが、大きな弱点もある。それは、市場での交換に参加できない人は生活のための衣食住を確保できず、生きることもできないし、自由を奪われ、幸福追求もできないこと。すなわち「生存権」「自由権」「幸福追求権」が奪われる。そのため、自由主義経済では「生活保護」のような制度が不可欠だ。生活保護は数ある社会保障の中でも「給付されないと即座に人が死ぬ(命がかかった)」状況で使われる。にもかかわらず、生活保護の利用については、多くの人々が権利の制限をされている。生活保護基準が低すぎたり、それを必要とする人が行政の「裁量」により利用できないのは、生存権の侵害だ。生存権保障はきわめて重要であり、憲法はまずこれを実現することが求められる。
 厚生労働省がこのたびの引き下げにあたって独自に採用したとされる生活保護世帯物価指数の算定方法では、生活保護世帯がほとんど購入しない家電製品などの物価下落幅が大きい物品が含まれている。また物価下落が大きくなる年を基準年に(恣意的に?)選んでいる点が問題だ。さらに一般世帯の消費支出全体と比べているため、以上のことと併せ、二重に物価下落を計上しているという大きな矛盾がある。
 自分(木村)が尊敬している「憲法研究者」故・奥平康弘先生も、現在のような生活保護叩きの風潮と、それに便乗した政府の保護基準引き下げまでは想定し得なかった(それほど酷いことだ!)。》

 なお、この日登壇された方のうち木村草太さん・田川英信さん・長妻昭さんの3人が発言中で「白井さん(記者)」に言及されました。これは「中日新聞」本社生活部編集委員・白井康彦さんのことでした。白井記者は「厚労省による生活保護削減のための物価偽装」に対して厳しい批判を数年にわたって行なっています。関連著書に『生活保護削減のための物価偽装を糾す! ―ここまでするのか! 厚労省』(あけび書房、2014)があり、本の出版後もこの分野に関する研究・意見発表・学習会を精力的に続けられています(関連ウェブページ:保護費引き下げのウラに物価偽装)。

田川英信さん
 田川英信さん(いのちのとりで裁判全国アクション事務局、元生活保護ケースワーカー)の基調報告《生活保護基準部会で何が行なわれているのか》
(※当編集部による要旨)
《厚生労働大臣から諮問を受けた社保審・生活保護基準部会(基準部会)の先生たちは基準引き下げになると生活保護利用世帯や低所得世帯に大きな影響を及ぼすため「慎重に配慮」することを求めた。にもかかわらず厚労省は、基準部会では検討しなかった物価下落(デフレ分)の調整という理屈を持ち出して、最大10パーセント、平均6.5パーセントにもおよぶ引き下げを断行した。そのため子どものいる世帯や多人数世帯はきわめて厳しい状況に追い込まれることになった。こうした強引なやり方の背景には自民党が野党であったときの政権公約「生活保護費の一割削減」がある。》

桜井啓太さん
 桜井啓太さん(名古屋市立大学講師、元堺市生活保護ケースワーカー)の特別報告《生活保護世帯の大学生の現状と課題~堺市実態調査から》
(※当編集部による要旨)
《日本の生活保護制度では、義務教育を超えての就学は原則認められていなかったけれど、全国的な高校進学率が上昇するのに従い、生活保護利用家庭の子どもの高校進学も認められるようになった。が、いまも生保家庭の子どもが高等教育機関(大学・短期大学・専修学校など)に進学することには大きな困難がある。「世帯分離」といった(不自然な)方法を使うことで進学も可能にはなっている。けれども、学生は学費捻出のためのアルバイト、「奨学金」という多額の借金とその返済による経済的不安、など強いストレスにさらされる。そのため勉強を続けることが難しくなる学生も少なくない。》

雨宮処凛さん、稲葉剛さん
 雨宮処凛さん(いのちのとりで裁判全国アクション共同代表、作家)と稲葉剛さん(住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人など)が司会を務めました。雨宮さん、稲葉さんはずっと以前から生活保護や生活困窮の問題に取り組み続けられています。その真摯でブレない姿勢には敬意を覚えます。この日もお疲れさまでした。

 集会では4人の生活保護利用当事者の発言がありました。長男の進学にともない「世帯分離」を強いられたシングルマザーの方、生活保護を利用しつつ「泣いたら負け」と頑張る高齢者の方、自らも「障害」を持ちつつ障害者支援団体に勤務し不足分を生活保護で補う方、DV 元被害者で5人の子どもを育てるシングルマザーの方。この4人の方たちの発言が当日のハイライトであったと「STOP!生活保護基準引き下げ」編集部員は思います。「勇気ある発言をありがとうございました」と心よりの御礼を申し上げます。

 集会アピールが「山本由香」さん(仮名/生活保護基準引下げ違憲訴訟原告)により読み上げられ、満場一致をもって承諾されました(当記事の末尾に全文転載)。山本さんも「障害」を持つ生活保護利用当事者として勇気ある発言を続けられています。今回もお疲れさまでした!

尾藤廣喜さん
 尾藤廣喜さん(弁護士、生活保護問題対策全国会議代表幹事)から今後の行動提起がされました。

  1. 生活保護基準部会を傍聴し、当事者の声を届ける
  2. 生活保護の充実を求める緊急署名」に取り組む(2018年1月31日最終集約)
  3. 2の署名や HP からダウンロードできるプラカードなども活用して、全国各地で、毎月25日に「25条アクション」に取り組む

 尾藤廣喜さんはかつて厚生省の若き官僚でした。その後、弁護士に転身され、人権問題に取り組まれ続けています。尾藤さんには現在の厚労省の在り方がきわめて苦々しいものに感じられるのではないでしょうか。なにしろ、人々のいのちと生活を守るはずの厚労省が率先して生活保護費の引き下げ(生存権の侵害)に加担しているのですから……

パネル・アピール
 本田宏さん(外科医)が音頭をとり、参加者みんなでパネル・アピールを行ないました。
《下げるな! 上げろ! 生活保護基準》
《生活保護でも大学に行きたい》
《NO! 自己責任社会》
《暑い夏に夏季加算を》
《社会保証は国の責任》
《健康で文化的な生活を》

竹下義樹さん
 竹下義樹さん(弁護士・つくし法律事務所)が閉会の挨拶と熱い檄とともに、集会は終了しました。
《今日の集会をこれからの取り組みにつなげよう!》
竹下義樹さんは全盲の方としては初めて弁護士になられました。「障害」も持ちながら苦学された方です。生活保護の問題でも竹下さんとは何度か集会や会議で同席させていただきました。その不撓不屈の精神にはいつも励まされ、勇気をいただいています。

 登壇された方々、国会議員の皆さま、スタッフ、参加された全ての皆さま、お疲れさまでした!
 
 生活保護制度を囲む状況は悪化しつつあります。2018年度からの(新たな)保護基準引き下げも着々と進められています。生活保護利用者や生活困窮者の「もう、これ以上、生活費を切り詰めるのは無理!」「これでは『死ね』といわれているのもおなじだ」という悲鳴は国・厚労省には届かないのでしょうか。現政権は生活保護を含めた福祉制度をどんどん劣化させようという奇妙な「熱意」に取り憑かれているのではないか。そう思えてなりません。生活保護へのバッシングが日々悪化していることは、わたしたちも実感しています。生活保護は人々の生存権を保障する制度です。それを劣化させることは「人が死ぬ」結果を確実に招きます。生存権保障がなされなければ、社会全体の劣化も免れないでしょう。このような事態が進むとき、自分には何ができるのか? どう抗えるのか? こうした問題意識を持ちつつ、わたしたち「STOP!生活保護基準引き下げ」編集部員も、けして諦めることなく、自分にできることをひとつひとつ実践していきたいと思います。

集会アピール

 国は、2013 年 8 月から生活扶助基準を平均 6.5%、最大 10%引き下げました。
この前例のない大幅引き下げは、「生活保護基準 10%引き下げ」という自民党の
選挙公約を達成するため、生活保護基準部会が出した数値を勝手に 2 分の 1 にし、
基準部会で一切検討していない「生活扶助相当 CPI」という特異な物価指数をねつ
造して実行されたものです。現在、現在 29 都道府県において 950 名を超える原告
が違憲訴訟(いのちのとりで裁判)を提起して争っています。また国は、2015 年
度からは住宅扶助基準と冬季加算も引き下げました。このため、生活保護利用者の
生活は苦しくなる一方です。
 2018 年度には 5 年に一度の生活保護基準の見直しが予定されていますが、「一
般世帯の消費支出と比べた不公平感」等を根拠に引き下げを求める財務省(財政制
度審議会)の意向を「忖度」して、母子加算の削減等子どものいる世帯の保護基準
が引き下げられることが強く懸念されています。
 ところで、生活保護世帯の子どもの大学・短大・専門学校等への進学率は 33.4%で、
一般世帯の 73.2%(浪人も含めると 80%)の半分以下です。これは、国が、生活保護を
受けながら大学等に就学することを認めておらず、生活保護世帯の子どもが大学等に
進学すると生活保護から外し(「世帯分離」といいます)、保護費を減らす運用をしている
からです。超党派議員連盟が見直しを求めるなどの動きも見られますが、いまだに国は
生活保護世帯の子どもが大学等で就学することを認めようとはしていません。

 そこで、私たちは、国に対して、以下のことを求めます。
1 一連の生活保護基準引き下げを撤回して元に戻してください。むしろ、酷暑が
続く中、悲劇が起きる前に夏季加算を創設してください。
2 生活保護世帯の子どもの大学・専門学校等への進学を認めとともに、低所得世
帯の学費減免と給付型奨学金を拡充してください。
3 母子加算の削減等さらなる生活保護基準の引き下げなどしないでください。

 また、そのために私たちは、以下のことに取り組むことを決意します。
1 当事者の声を届けるため生活保護基準部会に向けた宣伝・傍聴活動を行います。
2 「生活保護制度の充実を求める緊急署名」に取り組みます。
3 毎月 25 日に「25 条アクション」と銘打ち、各地の街頭などで市民に当事者の
声・実情を届ける活動に取り組みます。

2017 年 11 月 15 日 緊急院内集会「ガマンくらべを終わらせよう。
~生活保護でも大学に!下げるな!上げろ!生活保護基準
」参加者一同》