生活保護基準引下げ違憲東京国賠訴訟第7回口頭弁論期日が、2018年2月9日午後、東京地方裁判所103号法廷で行なわれました(清水知恵子裁判長)。この日もっとも注目されたのは原告「D」さん(50代男性)の真情溢れる陳述でした。また閉廷前には裁判所前で街宣、閉廷後に報告集会が弁護士会館5階502EF会議室で開催されました。

お知らせ

 次回・第8回期日のお知らせです。
日時:2018年5月23日(水)15時~
場所:東京地方裁判所103号法廷(東京都千代田区霞が関1-1-4/アクセス/地下鉄東京メトロ丸の内線・日比谷線・千代田線「霞ヶ関駅」A1出口から徒歩1分、地下鉄東京メトロ有楽町線「桜田門駅」5番出口から徒歩約3分)

東京地裁正門前で街宣
東京地方裁判所正門前で街宣

裁判

 開廷前、原告の「D」さんはとても緊張されているようでした。冬の寒い日でしたが、大柄な「D」さんは額に汗を流していました。そして原告陳述。自らの半生──生い立ち・家族との関係・職歴・病歴・生活保護利用にいたった理由・経過・保護基準の引き下げが暮らしに及ぼす影響と不安を法廷で語りました。以下は「STOP!生活保護基準引き下げ」編集部による要約です。

《私は実の母の顔を知りません。幼いころは児童養護施設で育ちました。その後、実父と養母と共に生活するようになりましたが、私が中学を卒業した15歳のとき、父から独立するよう求められました。そのため高校には進学せず、就職しました。帰る実家がないため、社員寮のある会社を選ぶしかありません。最初は喫茶店、後に新聞配達の仕事に就きました。しかし、新聞販売店在籍中に「てんかん」を発病し、入院。仕事は辞めざるを得なくなり、入院費を支払うこともできず……生活保護を利用することになりました。てんかんは持病となり、現在も発作にそなえて、常に薬を持ち歩いています。生活保護利用者として、ふだんから節約を強く意識しています。たとえば猛暑や厳寒の日でも暖房・冷房は使いません。けれども、いくら節約していても、家電製品は故障することがあります。新しい物を購入すれば当然お金がかかります。生活保護費がどんどん引き下げられる中、このような不意の出費は大きな負担となりますし、それが絶えず心配の元になっています。私の唯一の趣味は音楽を聴くことなのですが、家電買い替えの費用を考えると、音楽鑑賞もなかなかできません。》

 なお「D」さんが原告陳述をしているあいだ、清水知恵子裁判長が視線をそらさずに終始見つめていたのが印象的でした。

 法廷では被告側の不誠実な対応が(今回もまた!)繰り返されました。原告側主張の要点は「国・厚生労働省が生活保護基準を下げる、その意思決定の過程も根拠もきわめて不透明だ」「引き下げの過程と根拠を明らかにしていただきたい」です。しかし、被告はそれらを──まったくと言っていいほど──示せていません。今回も被告が(原告の要請により)提出した社保審・生活保護基準部会(基準部会)についての資料は、厚労省ウェブサイトにすでに掲載されている議事進行項目だけが記された紙きれ1枚でした。一時が万事この調子。もう少しマジメに「仕事」をしていただきたいものです。

報告集会

 閉廷後、弁護士会館5階502EF会議室に移動して、報告集会が開催されました。集会で様々な人たち(原告・弁護士・応援者など)が発言されたことを「STOP!生活保護基準引き下げ」編集部が以下にまとめました。

 生活保護費は、2012年12月の第二次安倍政権成立以降、3年間にわたり段階的に引き下げられました。厚生労働省は引き下げの理由を「一般の低所得世帯に比べて生活保護費が高すぎるので、均衡を図るため」としています。しかるに当裁判(生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟)で被告は引き下げの理由を「物価のデフレによるもの」だと主張。けれども、厚労省は公的にはこのようなこと(デフレ調整)は言っていません。厚労大臣から諮問を受けた基準部会では「デフレ」は議論されていないのです。また基準部会の先生方は「第十分位(最も所得が低い10%の層)」と生活保護世帯の比較には疑問を呈しています。さらに厚労省は生活扶助相当物価指数の算定において偽装的な操作を行なっています(「中日新聞」本社生活部編集委員・白井康彦さんの指摘:扶助費引き下げのウラに物価偽装)。

 この基準部会でも話し合われていないデフレを理由とした引き下げ断行について、裁判官も強い関心を抱いているようです。当裁判では口頭弁論期日とは別に非公開の進行協議期日が設けられています。これは証拠の多い裁判を可能な限り速やかに進行させるための「事実上の打ち合わせの場」です。裁判官は生活保護基準引き下げにおいて「国・厚労省による合理的理由が明確にされず」「決定に至る過程がまったく不透明であること」を大いに気にしていたそうです。

 前述のように3年間にわたり引き下げ続けられた生活保護費ですが、厚労省は2018年度から更に削減する方針を2017年12月に公表しています。この法案は予算委員会において審議中で、いまのところ通りそうな状況です。ただし引き下げ実施には厚労大臣の告示が必要です。今後の世論次第では告示を出せなくなる可能性もあります。マスメディアも一時のような加熱した「生活バッシング」は控えています。過日のNHK飯野奈津子解説員の生活保護削減を批判する内容の番組などもあり、風向きは変わっています。国会でのロビー活動と世論喚起に努めることで、新たな引き下げを止めさせることも充分に可能でしょう。

 報告集会では、厚労省・課長補佐「A」氏の傲慢で不誠実な対応も報告されました。集会より前の時間に、およそ7万筆の「生活保護制度の充実を求める緊急署名」が厚労省に提出された際のことです。応対に出た課長補佐「A」氏の言動がとにかく酷かったという報告が相次いでなされました。以下にその証言(要旨)を記します。

○生活保護利用中の「E」さん《先ほど厚労省へ削減の撤回を求める署名を提出してきた。「A」課長補佐の対応が酷すぎた。当事者の話を聞こうとする姿勢を示さない》

○生活保護利用中の「F」さん《約束の時間を10分過ぎても部屋の鍵すら開けずに、人を待たせた。ふだんは温厚な尾藤廣喜弁護士(元厚生省官僚)もカンカンに怒ったほどだ》

尾藤廣喜さん(弁護士/「生活保護問題対策全国会議」代表幹事)《とにかく『聞き置くだけ』が見え見えの不誠実な態度だった。私が若い官僚だったときは、15分前には完全に準備を整えておくことが常識中の常識だった。官僚機構が弛緩しているように思う。15年くらい前からその傾向が強くなってきた。安倍政権になって、さらに酷くなった》

尾藤廣喜さん
尾藤廣喜弁護士

 また、東京で2つめの生活保護裁判が始まることが、渕上隆弁護士から告知されました。渕上さんは「東京生存権裁判(生活保護老齢加算廃止違憲訴訟)」の弁護団事務局長を務めた経歴があります。渕上弁護士いわく《前回の裁判で敗訴はしたけれど、裁判所も一定の理解を示した。一審の判決で裁判官は「所得下位の10%と生活保護を比較するのはおかしいが、この度は『老齢加算』だからやむを得ない。しかし本体(生活扶助費)を引き下げる際にこのようなずさんなやり方を行なえば問題である」と述べていた。このような判例があるので、今後の生活保護裁判では裁判官も考慮するだろう》。「新・生活保護裁判東京(仮名)」は2018年5月14日提訴予定です。委細は当ウェブサイトでも追ってお知らせします。

もう一度お知らせ

 生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟の次回(第8回)口頭弁論期日
日時:2018年5月23日(水)15時~
場所:東京地方裁判所103号法廷(東京都千代田区霞が関1-1-4/アクセス/地下鉄東京メトロ丸の内線・日比谷線・千代田線「霞ヶ関駅」A1出口から徒歩1分、地下鉄東京メトロ有楽町線「桜田門駅」5番出口から徒歩約3分)
 弁護団の西田美樹弁護士によると「原告を応援したい人たちは左側(原告側)に座りましょう。被告側の人々を睨みつけたいならば右の席がお勧めです」とのことです。傍聴席を満席にして、いのちと尊厳を守る裁判に勢いをつけたいと思います。応援をよろしくお願いします。

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