厚生労働省の物価偽装問題を徹底的に追及しつづけている白井康彦さん(中日新聞社 編集委員)による【厚労省による物価偽装問題Q&A】の連載第2回「生活扶助相当CPIというカラクリ」です。

 また、今回からマンガ「すっとび! 生活保護問題アクション編集部 物価偽装編」も公開!

総務省統計局が担当している消費者物価指数と、厚労省が物価偽装で使ったとされる「生活扶助相当CPI」は、どういう関係ですか?
 まず、CPIとは何かです。これは「Consumer Price Index」の略。言葉の意味は消費者物価指数です。なので、生活扶助相当CPIは生活扶助相当消費者物価指数ということになります。

 では、生活扶助相当とは何か。厚労省は「生活扶助費で買わない品目を除く」という意味で使っています。生活保護制度では家賃は住宅扶助、医療費は医療扶助といった具合に、生活扶助費以外の扶助費でまかなえる部分もかなりあります。そのため、他の扶助費でまかなえる品目は生活扶助相当CPIの計算対象から外されています。生活保護世帯は原則としては車を保有しないため、車の購入費やガソリン代なども対象外にされています。

 総務省統計局が公表する消費者物価指数にも、一部の品目を除いたものがあります。計算対象の全品目が対象なのは「総合指数」であり、値動きが激しい生鮮食品の品目を除くのが「生鮮食品を除く総合指数」です。生活扶助相当CPIは「生活扶助費で買わない品目を除く総合指数」と考えれば、それほど外れていません。

 生活扶助相当CPIの計算に必要な各品目の価格指数変化率や各品目の支出額割合(ウエイト)についても、厚労省は消費者物価指数統計のデータをそのまま拝借しました。

 生活扶助相当CPIは一見すると、総務省統計局が担当している消費者物価指数の仲間です。ところが、厚労省は計算の一部で、消費者物価指数の通常の計算方式(ラスパイレス方式)でない異例の方式をこっそり使ったのです。かかわったのは、厚労省の担当部署と三菱総研のチーム。大胆不敵だと思います。異例の方式については後でくわしく説明します。
物価が3年間で5%近くも下がったという実感がないのですが……
 消費者物価指数の一番基本である総合指数のこの40年ほどのデータを見てみると、3年間の下落率が一番大きかったのは、2008年~2011年の2.35%です。3年間の下落率が5%近くになるなんてありえないと、物価指数に詳しい人たちは感じています。生活扶助費で買う品目の生活扶助相当CPIだけがなぜ、この3年間の下落率が4.78%になるのか。生活保護世帯だけが激烈なデフレ状態にいたのか。そんなことは決してありません。物価下落率を意図的に厚労省が膨らませたのです。物価下落傾向がはっきりしていた2008年~2011年の物価下落率から判断したのも、極めて意図的で問題です。
5%近い物価下落率って、そんなに異常なんですか?
 物価は、多くの品目の価格の平均的な水準を意味します。物価下落率が5%下がるという状況は、例えば、すべての品目が5%値下がりしていれば現実と言えます。2008年~2011年にかけてそうした状況があったかと言うと、まったくありません。では、厚労省の計算でどうして物価下落率が5%近くになったのか。特定の品目グループの価格指数の下落の影響が大きかったんです。その品目グループとは何か。テレビとかパソコンなどの電気製品なんです。「電気製品の影響が大きくて生活保護受給者の生活費がばっさり削られた」という構図なんです。皆さん、おかしいと思いませんか。
厚労省は独自の消費者物価指数である「生活扶助相当CPI」で物価下落率を過大に出したということですが、その計算過程は示されているのでしょうか?
 その情報が決定的に重要です。それが、2013年に国会での質問主意書に対する答弁書の中で示されたのです。貧困問題に取り組む社会活動家の働きかけを受けて、社民党の福島参院議員が質問主意書を出しました。添付の答弁書を見てください。だらだらと読みにくいですが、計算で使った数字はしっかり示されており、この計算データを自分のパソコンに打ち込んで計算表を作れば、しっかり考察できるのです。

参議院議員福島みずほ君提出生活扶助基準の見直しに関する質問に対する答弁書

厚労省は、いつからいつまでに生活扶助相当CPIが何%下落したと説明したのですか?
 厚労省は「2010年を100として2008年が104.5、2011年が99.5」と示しました。これで、4.78%の下落と言うのです。白井は、この数字を見たとたんに「おかしい」と思いました。3年間でそんなに大きく物価が下がったはずがないと感じたのです。

 総務省統計局が発表している消費者物価指数の統計のうちから、全品目が対象の総合指数を見て、比べてみました。添付した表やグラフの通りです。

 生活扶助相当CPIの方は、2008年~2010年の下落ぶりが極端すぎる感じがしたのです。3年間で5%近くも物価が下落したら相当なデフレですけど、生活保護世帯だけが猛烈なデフレだった、というのはどう考えても変に思えたのです。
生活扶助費の金額を見直すとき、物価の動向を反映させるのはいつもやっていることなんですか?
 鋭い質問です。実は、2013年からの生活扶助費削減のときが初めてだったのです。生活扶助費の改定は、厚労省が案を作って政府予算案に内容を反映させ、予算案が国会で可決された後、厚労大臣が告示する、といった手順になっています。

 大がかりな改定作業をするときは、社会保障審議会生活保護基準部会を繰り返し開いて有識者の意見を聞きます。このときも、生活保護基準部会の会合を繰り返しました。ところが、「物価連動」の部分については、基準部会では話し合いの対象にもなっていませんでした。2013年1月下旬に生活扶助費の削減案が公表され、それを見ると、削減の要因の8割強が「物価連動」だったので、驚く人が多かったのです。

 物価連動の作業は、厚労省社会援護局保護課と委託先の三菱総研のチームで進めました。消費者物価指数の担当である総務省統計局や物価指数の専門家にも何も相談しないで、密室で独断的に物価連動の部分を生活扶助費削減案に織り込んでしまったのです。
厚労省が2008年~2011年の期間の物価下落率を持ち出したことは、妥当なのでしょうか?
 ここも極めて怪しいポイントです。この頃より前に生活扶助費の改定があったのは2004年なので、通常の感覚なら比較の始点は2004年になりそうなものです。

 2000年以降の物価の動きを振り返ってみれば、怪しいと感じる理由が分かります。この時期では2008年だけ、山のように高くなっているのです。図は、消費者物価指数の総合指数です。2008年~2011年の期間で見れば、まさに「山高くして谷深し」の格好です。

 物価下落率を膨らませようとして、この3年間ということにしたのでは、と疑われるのは当然でしょう。さらに、この3年間でも総合指数の下落率は2.35%にとどまることに注目せねばなりません。なぜ、厚労省の計算だと下落率が膨らんだのか?

(白井康彦/中日新聞社 編集委員)
(制作協力:野神健次郎/《STOP! 生活保護基準引き下げ》編集委員)