生活保護問題対策全国会議が『HOGO NAMENNA(保護なめんな)』ジャンパー事件に関して小田原市に公開質問状を提出しました(2017年1月20日郵送)。公開質問状の全文を転載させていただきます。
☆転載開始☆
生活保護行政に関する公開質問状
小田原市長 加藤憲一 殿
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 弁護士 尾藤廣喜
当会は、弁護士、司法書士、研究者、ケースワーカー、生活保護利用当事者、その支援者等で構成され、生活保護制度の違法な運用を是正するとともに同制度の改悪を許さず、生活保護法をはじめとする社会保障制度の充実を図ることを目的として活動している市民団体です。
今般、報道された貴市の生活保護担当部署職員らが作成・着用したジャンパーの問題について以下のとおり、意見を申し述べるとともに、質問および資料提供の要請をいたします。
御多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが、2017年2月末日までに本書末尾記載の連絡先あてにご回答いただきますよう、よろしくお願い致します。
今回のジャンパー作成・着用の何が問題か
本年1月17日付読売新聞の報道等によれば、貴市の生活保護担当部署の職員が「保護なめんな」「不正を罰する」などと、受給者を威圧するような文言をプリントしたジャンパーを着て各世帯を訪問していたということです。ジャンパーの背面には、「我々は正義だ」「不当な利益を得るために我々をだまそうとするならば、あえて言おう。クズである」などの文章が英語で書かれているといいます。
もちろん不正受給は許されるべきものではなく、悪質な不正受給に対しては厳正に対処することが必要です。しかし、不正受給の割合は、金額ベース(不正受給額÷保護費全体)では0.5%程度、件数ベース(不正受給件数÷保護受給世帯数)では2%程度で推移しており、全体から見ればごく稀な現象です。ほとんどの生活保護利用者は適正に保護を利用しているにもかかわらず、このジャンパーを着て日常業務にあたるということは、すべての保護利用者に対し、不正をし、職員を騙しているかもしれないと疑い、敵視し、威嚇する姿勢で対峙するものと言わざるを得ません。
生活保護利用者のほとんどは、高齢、障害、傷病、ひとり親などのハンディを抱えており、福祉事務所のケースワーカーには、その困難に寄り添った福祉的な支援が求められています。ジャンパーの記載内容は、そうした姿勢とはおよそかけ離れており、唖然とせざるを得ません。家庭訪問に来た職員の胸に「保護なめんな」「×悪」と書かれたエンブレムがあるのを見た生活保護利用者たちは、どのような思いを抱いてきたでしょうか。そこに信頼関係に基づくケースワークが成立するはずがありません。「利用者のウェル・ビーイング を支援する」というソーシャルワーク共通の価値観にも真っ向から反するものです。
また、生活保護の利用は権利ですが、2012年春以降の「生活保護バッシング」の影響もあり、生活保護制度とその利用者に対しては偏見が根強くあります。そのため、利用者の多くは、生活保護の利用を周りに知られたくないという思いを強く持っています。この点は、生活保護手帳別冊問答集(問13‐31)も、「今日においても、できれば保護は受けたくないという気風も残っており、こうした状況の下では、被保護者であるということを他人に知られたくないと考えることは社会常識に反するとはいえないであろう」として、被保護者の秘密保持に配意すべきとしているところです。揃いのジャンパーや制服を着て家庭訪問をすることは、生活保護を利用していることを近隣に広報することに等しく、福祉事務所においては一般的には厳禁とされています。
貴市の組織的・構造的な問題であること
報道(NHK、毎日新聞)によれば、ジャンパーは10年前に作られ、これまでに64人が購入し、現職33人のうち28人が持っているといいます。10年の長きにわたって、誰からも問題が指摘されることなく脈々と引き継がれてきて、現在も職員のほとんどが所有していることからすると、これは一部の職員の問題行動ではなく、貴市の保護担当部署が抱える組織的構造的問題と言わざるを得ません。
このことは、今回の問題発覚後、指摘を受けて既に是正されたとはいえ、貴市HPの「生活保護制度について」に数々の違法な記載がなされていたことにも表れています。すなわち、是正前の貴市HPには、まず求められる記載である生活保護制度が、どのような場合に利用できる制度であるか、そして、これが憲法25条に基づく権利であるとの基本的な記載がなく、「生活保護よりも民法上の扶養義務(特に親子・兄弟間)の方が優先されますので、ご親族でどの程度の援助ができるか話し合ってください。」という一文から記載が始まっており、親族による扶養が保護適用の前提条件であると誤解させる内容になっていました。これに続く文章も、生活保護が受けられない場合や、受けることによるデメリットのみが羅列されていて、生活保護の利用を抑制しようという姿勢が顕著でした。
また、貴市は、上司ら7人を厳重注意とし、1月17日、福祉健康部長等による謝罪会見を開きましたが、会見で同部長は、「受給者に差別意識を持っている職員はいません。そう断言したい」と発言し、他の幹部も、不人気な生活保護職場の中でみんな頑張っていることを訴えたかったと職員を擁護する姿勢に終始しました。これでは、何が問題なのか、その本質を理解しておらず、謝罪や注意は批判の鎮静化を図るためのポーズに過ぎないのではないかとの疑念を抱かざるを得ません。
要望及び質問事項
そこで、当会は、貴市に対し、何ゆえに10年前にこのようなジャンパーを作成・着用することになったのか、何ゆえにその後10年の長きにわたって問題が是正されることなく続いてきたのか、ジャンパー問題以外に保護行政の歪みはないのか等について、学識経験者、支援者、生活保護利用当事者等による検証委員会を設置するなどして、徹底した検証を行い、上記の組織的構造的問題を根本的に改善することを求めます。
また、当会としても、今回の事件の背景に何があるのか、貴市における生活保護利用者の憲法上の権利を実現するために何が必要か、ともに考えたいと思っておりますので、以下の事項について質問させていただきます。
1 何ゆえに10年前にこのようなジャンパーを作成・着用することになったのか、その具体的な経過を明らかにしてください。
また、その後10年の長きにわたってなぜジャンパー問題が是正されることなく続いてきたのか、さらに、この10年間に、ジャンパー問題の問題点を指摘する職員、生活保護利用当事者、支援者などは、いなかったのかどうかを明らかにしてください。
2 訂正前の貴市HPの「生活保護制度について」には、数々の違法な記載がなされていましたが、この記載内容について、問題はないと考えていたのかどうかについて、
記載内容の項目ごとに明らかにしてください。
また、貴市の上記HPは、最近訂正されましたが、その訂正理由と、訂正後の内容で問題はないと考えているかどうかについて、明らかにしてください。
3 今回の事態を受けて、貴市では、生活保護制度の運用について、具体的にどのよう
な改革をする予定でしょうか。その内容を明らかにしてください。
4 貴市における過去10年間の以下のデータをご提供ください。
(1)生活保護行政全般
① 保護費総額
② 被保護世帯数
③ 被保護人員数
④ 保護率(③÷市人口)
⑤ 高齢、障害・傷病、母子、その他世帯の各割合
⑥ 相談件数
⑦ 申請件数
⑧ 申請率(⑦÷⑥)
⑨ 開始件数
⑩ 開始率(⑨÷⑥)
⑪ 申請から14日以内に決定した件数、30日以内に決定した件数、それ以上要した件数
⑫ 文書による指導指示件数、それに基づく停廃止処分の件数
⑬ 廃止件数
⑭ 廃止理由の内訳及び内訳別件数
(2)職員体制について
① 生活保護査察指導員、同ケースワーカーの各人数
② ①のうち社会福祉主事、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士の各資格取得者の人数
③ ①の年齢別、在職年数別人数の内訳、平均在職年数、平均年齢
④ ケースワーカー一人あたりの持ちケース数
⑤ 貴市職員の男女比率と貴市の生活保護担当部署職員の男女比率
⑥ 生活保護担当部署職員に対して実施した研修の具体的な内容
5 貴市において作成している以下の資料類があれば、過去10年分について、開示、ご提供ください。
① 生活保護実務運用のための年度別生活保護運営方針または計画書面
② 県の監査における指摘事項書面及び県に対する回答書面
各種自立支援プログラムの実施要領等書面
ウェル・ビーイング・・・個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること。最低限度の生活保障だけでなく、人間的に豊かな生活の実現を支援し、人権を保障するためのソーシャルサービス
☆転載終了☆